AI特許の書き方について
以前、AIを活用した発明(以下、AI活用発明)に関する投稿をさせていただきました。今回は、AI活用発明の書き方について説明します。AI活用発明では、複数種類のデータを扱いますが、この複数種類のデータの間に相関関係等が存在する必要があります。例えば、入力データを学習済みモデルに与えることにより、結果として出力データを得るような場合、この入力データと出力データとの間には相関関係が存在する必要があります。
以下、特許庁が示した審査事例(特許庁「AI関連技術に関する事例の追加について」)に基づいて説明します。
糖度推定システム
【請求項1】
人物の顔画像と、その人物が栽培した野菜の糖度とを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された人物の顔画像と前記野菜の糖度とを教師データとして用い、入力を人物の顔画像とし、出力をその人物が野菜を栽培した際の野菜の糖度とする判定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、人物の顔画像の入力を受け付ける受付手段と、前記モデル生成手段により生成された判定モデルを用いて、前記受付手段に入力された人物の顔画像から推定されるその人物の栽培した際の野菜の糖度を出力する処理手段と、を備える糖度推定システム。
簡単に言うと、この糖度推定システムは、野菜を栽培した人物の顔画像と野菜の糖度を教師データとして生成した学習済みモデルを用いて、入力された人物の顔画像から野菜の糖度を出力するというものです。
この事例に関しては、『発明の詳細な説明には、人物の顔画像とその人物が野菜を栽培した際の野菜の糖度について、「人相とその人が育てた野菜の糖度に一定の関係性がある」と述べられているにとどまり、人相を特徴付けるものの例として頭の長さ、頭の幅、鼻の幅、唇の幅が記載されているものの、具体的な相関関係等については記載されていない。』との理由で、特許請求の範囲の記載に関して記載要件違反(実施可能要件違反)となっています。
このように、明細書に複数種類のデータの間の具体的な相関関係が記載されていない場合、次の事例に示すように、出願時の技術常識に鑑みて複数種類のデータの間に相関関係が推認できる場合を除いて、拒絶理由に該当します。
事業計画支援装置
【請求項1】
特定の商品の在庫量を記憶する手段と、前記特定の商品のウェブ上での広告活動データ及び言及データを受け付ける手段と、過去に販売された類似商品に関するウェブ上での広告活動データ及び言及データと、前記類似商品の売上数とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記特定の商品の広告活動データ及び言及データから予測される今後の前記特定の商品の売上数をシミュレーションして出力する手段と、前記記憶された在庫量及び前記出力された売上数に基づいて、前記特定の商品の今後の生産量を含む生産計画を策定する手段と、前記出力された売上数と、前記策定した生産計画を出力する手段と、を備える事業計画支援装置。
簡単に言うと、これは、過去の類似品の広告活動データ、言及データ、売上数を教師データとして生成された学習済みモデルを用いて、広告活動データとその言及データから今後の売上数の予測値を推定する事業計画支援装置です。
この事例においては、『発明の詳細な説明には、これらウェブ上での広告活動データ及び言及データと売上数との間の具体的な相関関係等については記載されていないが、出願時の技術常識に鑑みてこれらの間に相関関係等が存在することが推認できる。』との理由により、記載要件に関する拒絶理由はありません(勿論、記載要件に関する拒絶理由はないだけで、他の要件(例えば、進歩性など)をクリアする必要はあります)。
このように、明細書に複数種類のデータの間の具体的な相関関係が記載されていなくても、出願時の技術常識に鑑みて複数種類のデータの間に相関関係が推認できるのであれば、記載要件は満たされます。
以上から、AI活用発明について特許出願する場合、入力データと出力データの相関関係等が存在するか否かが重要になってきます。出願時の技術常識に鑑みて入力データと出力データの間に相関関係等が存在することが推認できない場合には、例えば、実験データや統計データなどを用いて相関関係等を証明する必要があります。
まとめると、AI特許のデータ間の相関関係の判定方法は、以下のようなフローになります。
AI活用発明のアイデアをお持ちの方、一度相談に訪れてください。上述したデータの扱いも含めて最適なアドバイスをさせていただきます。