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属地主義について

属地主義とは、国際私法上の一つの主義で、法の適用・効力を制定された領域内だけで認めようとするものです。特許に関して言えば、日本の特許の効力は日本国の領域においてのみ認められるというものです。
そして、特許権の行使に関しては、権利一体の原則というものがあり、特許発明の実施は、当該特許発明を構成する要素全体を実施することを意味します。
つまり、当該特許発明を構成する要素全体を日本で実施して、はじめて特許侵害となります。逆を言えば、当該発明を構成する要素の一部が国外で実施している場合には、特許発明の実施には該当せず、特許権の侵害にはならないのです。

この点、最近、この属地主義の原則を厳格に解釈するのではなく、特許権の範囲をネット時代に対応して柔軟に解釈した知財高裁の判決が出ました。

以下、日経の記事(2023年5月27日朝刊)を引用します。


動画配信サービス「ニコニコ動画」を手掛けるドワンゴが、動画にコメントを流す特許を侵害されたとして米FC2などに配信差し止めと10億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、知財高裁の大合議(裁判長・大鷹一郎所長)であった。大鷹裁判長は請求を棄却した一審判決を変更して特許侵害を認め、FC2側に配信差し止めと約1100万円の賠償を命じた。
訴訟はネットを通じて国境を越えて特許技術が使われた場合、日本で登録された特許の侵害を問えるかが争点。ドワンゴが2019年に提訴したが、22年の一審・東京地裁判決は、サーバが海外にあるとして特許侵害を認めなかった。
これに対し26日の大合議判決は、行為の具体的な態様▽日本国内にある構成要素が果たす機能や役割▽発明による効果が得られる場所▽特許権者の経済的利益への影響――などを総合考慮し、国内で行われたとみなせれば、日本の特許権が及ぶとの基準を示した。
その上でFC2のサービス提供について「娯楽性の向上という発明の効果が国内で生じ、ドワンゴ側の経済的利益に影響を及ぼしうる」などとして「国内で行われたとみることができる」と結論付けた。
(色、下線は筆者)

このように発明の構成要素であるサーバが海外にあっても、ある条件を満たせば、日本国内の実施とみなせ、日本の特許権が及ぶとの判示です
ある条件の成立は、上記記事にも記載されていますが、詳しくは、
当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、
(1)当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、
(2)当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、
(3)その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるとき
」となっています。

実は前年(2022年)にも、ドワンゴとFC2の属地主義に係わる別の特許訴訟の判決が知財高裁から出されており、このときも、知財高裁は「特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国内の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される」とし、FC2の特許権侵害を認める判決を下しています。

以前からネットワークを通じたサービスに関する特許に関しては、サーバが海外に置かれている場合に日本の特許権の侵害が問えるかという「域外適用」の問題がありましたが、前回そして今回の判例により、今後は柔軟に判断にされるようになり、ネットビジネスの権利保護という観点では良い方向に向かうのではないでしょうか。
なお、このようなネットワークを通じたサービスに関する特許に関しては、複数の主体(プレーヤー)が登場することから、実務的には特許請求の範囲(クレーム)の作成にも工夫が必要となります(詳しくは、「IoT特許について」の「IoT関連発明の請求項作成における留意点」参照)。AI、IoTなどネットワークを通じたサービスに関する発明を特許出願する場合には、IT系の特許出願に精通した弁理士に相談することをお薦めします。

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