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IoT特許について

昨今、あらゆる「モノ」がネットワークに接続されることで新たなサービスが生まれてきています。いわゆる「モノのインターネット」(Internet of Things)に関連する技術(IoT関連技術)がさまざまな分野で利用されており、注目されています。IoT関連技術は、(1)ネットワークを介して得られた情報を活用することにより「モノ」に付加価値を与える技術であり、また、(2)センサ等を用いて「モノ」が取得する大量のデータをサーバがネットワークを介して収集・分析することによりシステムを最適化する技術です。

(特許庁「IoT関連技術等の審査基準等について」)

特許庁は、このようなIoT関連技術の進展を踏まえて、どのような発明がIoT関連発明として特許される可能性があるのかを事例で示しています。
以下、いくつかの事例をベースにIoT関連特許について説明をします。

発明該当性に関する事例

以下の「無人走行車の配車システム」に係る発明は、発明に該当する例として特許庁から示されています。
IoT関連発明は、コンピュータソフトウェアを必要とする発明でもあるので、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている場合、発明該当性の要件を満足します。

【請求項1】
配車サーバと、配車希望者が有する携帯端末と、無人走行車とから構成されるシステムであって、
前記携帯端末が、
ユーザID及び配車位置を前記配車サーバに送信する送信部を備え、
前記配車サーバが、
ユーザIDに対応付けてユーザの顔画像を記憶する記憶部と、
前記携帯端末から受信したユーザIDに対応付けて記憶された顔画像を前記記憶部から取得する取得部と、
無人走行車の位置情報及び利用状態に基づいて、配車可能な無人走行車を特定する特定部と、
前記特定された無人走行車に対して、前記配車位置及び顔画像を送信する送信部と、を備え、
前記無人走行車が、
前記配車位置まで自動走行する自動走行部と、
前記配車位置にて、周囲の人物に対して顔認識処理を行う顔認証部と、
受信した前記顔画像に一致する顔の人物を配車希望者と判定し、無人走行車の利用を許可する判定部と、を備えることを特徴とする、
無人走行車の配車システム。

(IoT関連技術等に関する「特許・実用新案審査ハンドブック」事例集より)

特許庁は、説明として『請求項1には、配車サーバが、受信したユーザIDに対応付けて記憶された顔画像を記憶部から取得し、配車可能な無人走行車に顔画像等を送信すること、及び、無人走行車が、受信した当該顔画像を用いて顔認識処理を行うこと等が記載されている。これらの記載から、無人走行車の配車という使用目的に応じた特有の演算又は加工が、記憶部を備える配車サーバ、顔認証部を備える無人走行車及び携帯端末から構成されるシステムという、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって実現されていると判断できる。(中略)したがって、請求項1に係る発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、「発明」に該当する。』と言っています。

(私見)
この無人走行車の配車システムは、遊園地やテーマパークなどの所定の敷地におけるサービスを想定しています。したがって、配車サーバと無人走行車は、この配車システムを提供する事業者が有する物ですが、携帯端末は、ユーザが所有する物と考えられます。したがって、直接侵害に基づく権利行使を考慮すると、携帯端末を構成要素としない請求項があった方がよいと思います。
以下、携帯端末を構成要素としないシステムの請求項(案)を記載します。

【請求項(案)】
配車サーバと、配車希望者が有する携帯端末と、無人走行車とから構成されるシステムであって、
前記配車サーバが、
配車希望者が有する携帯端末から、ユーザID及び配車位置を受信する受信部と、
ユーザIDに対応付けてユーザの顔画像を記憶する記憶部と、
前記携帯端末から受信したユーザIDに対応付けて記憶された顔画像を前記記憶部から取得する取得部と、
無人走行車の位置情報及び利用状態に基づいて、配車可能な無人走行車を特定する特定部と、
前記特定された無人走行車に対して、前記配車位置及び顔画像を送信する送信部と、を備え、
前記無人走行車が、
前記配車位置まで自動走行する自動走行部と、
前記配車位置にて、周囲の人物に対して顔認識処理を行う顔認証部と、
受信した前記顔画像に一致する顔の人物を配車希望者と判定し、無人走行車の利用を許可する判定部と、を備えることを特徴とする、
無人走行車の配車システム。

(私見)
また、ユーザの顔画像を記憶する記憶部を配車サーバが備えないという構成も考えられます。他の事業者が有しているデータを利用して顔画像を取得する場合などです。このような場合を想定すると、配車サーバがデータを保持しない請求項も作成した方がよいかもしれません。
以下、配車サーバが記憶部を持たないシステムの請求項(案)を記載します。

【請求項(案)】
配車サーバと、配車希望者が有する携帯端末と、無人走行車とから構成されるシステムであって、
前記配車サーバが、
配車希望者が有する携帯端末から、ユーザID及び配車位置を受信する受信部と、
ユーザIDに対応付けてユーザの顔画像を記憶する記憶部と、から、前記携帯端末から受信したユーザIDに対応付けて記憶された顔画像を前記記憶部から取得する取得部と、
無人走行車の位置情報及び利用状態に基づいて、配車可能な無人走行車を特定する特定部と、
前記特定された無人走行車に対して、前記配車位置及び顔画像を送信する送信部と、を備え、
前記無人走行車が、
前記配車位置まで自動走行する自動走行部と、
前記配車位置にて、周囲の人物に対して顔認識処理を行う顔認証部と、
受信した前記顔画像に一致する顔の人物を配車希望者と判定し、無人走行車の利用を許可する判定部と、を備えることを特徴とする、
無人走行車の配車システム。

(私見)
さらに言えば、配車サーバを備えない構成は考えられないでしょうか?あまり現実的でないかもしれませんが、サーバ的な役割を無人走行車にさせる場合です。携帯端末が配車希望者の近傍に存在する無人走行車と通信して、配車可能な状態の無人走行車に来てもらうというものです。

以下、配車サーバを持たないシステム、つまり無人自動車の請求項(案)を記載します。

【請求項(案)】
配車サーバと、配車希望者が有する携帯端末と、無人走行車とから構成されるシステムであって、
前記配車サーバが、

配車希望者が有する携帯端末から、ユーザID及び配車位置を受信する受信部と、
無人走行車の位置情報及び利用状態に基づいて、配車可能か否かを判断する判断部と
前記判断部により配車可能と判断された場合、ユーザIDに対応付けてユーザの顔画像を記憶する記憶部と、から、前記携帯端末から受信したユーザIDに対応付けて記憶された顔画像を前記記憶部から取得する取得部と、
前記特定された無人走行車に対して、前記配車位置及び顔画像を送信する送信部と、を備え、
前記無人走行車が、

前記配車位置まで自動走行する自動走行部と、
前記配車位置にて、周囲の人物に対して顔認識処理を行う顔認証部と、
受信した前記顔画像に一致する顔の人物を配車希望者と判定し、無人走行車の利用を許可する判定部と、を備えることを特徴とする、
無人走行車の配車システム

新規性に関する事例

以下の「ドローン見守りシステム、ドローン装置」に係る発明は、新規性を有する例、有しない例として特許庁から示されています。
IoT関連技術は、複数の装置がネットワークで接続されたシステムで実現されているため、当該システムの一部の装置がサブコンビネーションとして特許出願されることがあります。このような場合、「他のサブコンビネーション」に関する事項が、サブコンビネーションの発明の構造や機能を特定している場合、サブコンビネーションの発明を、そのような構造や機能を有するものと認定します。そして、当該構造や機能を有するものが公知でなければ新規性があると認定されます。一方、「他のサブコンビネーション」に関する事項が、サブコンビネーションの発明の構造や機能を何ら特定していない場合、サブコンビネーションの発明を、そのような構造や機能を有しないものと認定します。

【請求項1】
三次元移動が可能なドローン装置によって、見守り対象を見守るドローン見守りシステムであって、
複数の前記ドローン装置と、前記見守り対象に携帯される端末装置と、通信ネットワークを介して前記ドローン装置及び前記端末装置と接続される管理サーバとから構成され、
前記端末装置は、
現在位置を端末位置情報として取得し、
前記管理サーバへ送信する手段を備え、
前記管理サーバは、
前記端末装置から受信した前記端末位置情報に基づいて、前記見守り対象の最も近くに存在するドローン装置を選択する手段と、前記選択したドローン装置に前記端末位置情報を送信する手段とを備え、
前記ドローン装置は、
自機の現在位置をドローン位置情報として取得する手段と、前記管理サーバから、前記端末位置情報を受信する手段と、前記ドローン位置情報と前記端末位置情報とに基づいて、自機の飛行制御を行う手段とを備えることを特徴とする、ドローン見守りシステム。
【請求項2】
通信ネットワークを介して管理サーバと接続され、三次元移動が可能なドローン装置であって、
自機の現在位置をドローン位置情報として取得する手段と、前記管理サーバから、端末位置情報を受信する手段と、前記ドローン位置情報と前記端末位置情報とに基づいて、自機の飛行制御を行う手段とを備え、
前記管理サーバは、
見守り対象の端末装置から受信した端末位置情報に基づいて、前記見守り対象の最も近くに存在するドローン装置を選択する手段と、前記選択したドローン装置に前記端末位置情報を送信する手段とを備えることを特徴とする、ドローン装置。

(IoT関連技術等に関する「特許・実用新案審査ハンドブック」事例集より)

特許庁は、請求項1に係る発明は、新規性を有し、請求項2に係る発明は、新規性を有しないと判定しています。上図のような従来技術の文献があったという前提です。引用文献のドローン見守りシステムは、本願のドローン見守りシステムと全体としては略同一なシステムですが、管理サーバの機能が異なっています。つまり、管理サーバは、ドローン装置と端末装置を対応付けて管理しており、特定したドローン装置に対して端末位置情報を送信しています。
特許庁は、請求項1に関しては『ドローン見守りシステム」を構成する管理サーバが「受信した端末位置情報に基づいて、見守り対象の最も近くに存在するドローン装置を選択する」ものであるのに対して、引用文献に記載された発明は「受信した端末装置の識別情報に対応付けられたドローン装置を特定する」ものである点において、請求項1に係る発明と引用文献に記載された発明とは相違する。したがって、請求項1に係る発明は新規性を有する。』と言っています。
一方、請求項2に関しては『「ドローン装置」の発明であるところ、「管理サーバは、見守り対象の端末装置から受信した前記端末位置情報に基づいて、前記見守り対象の最も近くに存在するドローン装置を選択する手段と、前記選択したドローン装置に前記端末位置情報を送信する手段とを備える」との、他のサブコンビネーションである「管理サーバ」に関する事項が記載されている。しかしながら、管理サーバがどのような基準に基づいて、見守り対象を見守るドローン装置を選択するかは、請求項2に係るドローン装置の構造、機能等に何ら影響を及ぼすものではないから、上記他のサブコンビネーションに関する事項は、ドローン装置の構造、機能等を何ら特定するものではない。(中略)そして、請求項2に係る発明と引用文献に記載された発明との間に、他に相違点はないから、請求項2に係る発明は新規性を有しない。』と言っています。

(私見)
直接侵害を想定した権利行使という観点から言えば、サブコンビネーションの請求項を作成することは大事ですが、上記請求項2の場合のように、新規性を有しないと判断される場合もあるので、サブコンビネーションの請求項の作成に関しては、他のコンビネーションに関する事項がサブコンビネーションの発明の構造や機能を特定しているか否かという点を吟味することが重要です。
なお、このドローン見守りシステムの場合においても、端末装置をスマートフォンのようなユーザが所有する通信装置とする場合には、端末装置を構成要素としないシステムの請求項があった方がよいと思います。

進歩性に関する事例

以下の「豪雨地点特定システム」に係る発明は、進歩性を有する例として特許庁から示されています。

【請求項1】
複数の車両が備えるワイパーに装着されたワイパー動作センサ、及び前記ワイパー動作センサとネットワークを介して接続される分析サーバを備え、
前記ワイパー動作センサは、
装着されたワイパーの加速度情報を含む動作情報を検出する検出部と、
自センサの現在位置情報を取得する取得部と、
前記動作情報に前記現在位置情報を対応付けて前記分析サーバに送信する送信部と、
を有し、
前記分析サーバは、
複数の前記ワイパー動作センサから、前記動作情報及び現在位置情報を収集する収集部と、
前記収集された複数の動作情報のうち、ワイパーが高速に動作していることを示す動作情報に対応付けられた現在位置情報を統計的に分析することで、豪雨が発生している地点を特定する分析部と、
を有する豪雨地点特定システム。



(IoT関連技術等に関する「特許・実用新案審査ハンドブック」事例集より)

引用文献1の発明(引用発明1)は、ワイパーの故障検知に関する発明であり、ワイパーの動作情報を収集し、過去の故障履歴との比較によって故障が生じているワイパーを特定することを課題としています。すなわち、引用発明1は、収集したワイパーの動作情報を過去の動作情報と比較するものです。一方、引用文献2の発明(引用発明2)は、投稿文を用いて豪雨地点特定に関する発明であり、豪雨に関する単語を含む投稿文を活用して豪雨地点を特定することを課題としています。すなわち、引用発明2は、位置情報を含む投稿文を統計的に分析することで豪雨地点を特定するものです。
特許庁は、このような従来技術の引用文献の発明を組み合わせてみても、請求項1に係る発明は、進歩性を有しているものと判定しています。
特許庁は、2つの引用発明には、技術分野の相違、課題の相違、作用、機能の相違が見られるので、『総合的に考慮すると、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがあるとはいえない。以上の事情を踏まえると、引用発明1に引用発明2を適用し、かつ技術常識を参酌することで、当業者が請求項に係る発明に容易に想到し得たということはできない』という結論を下しています。

(私見)
同一事業者が分析サーバを有し、豪雨地点を特定するサービスを実行する事業者とワイパー動作センサを販売する事業者が異なる場合には、分析サーバだけの請求項があった方がよいかもしれません。

IoT関連発明の請求項作成における留意点

以上の事例を踏まえてIoT関連発明の請求項作成における留意点を総括したいと思います。

1.サブコンビネーションの請求項を作成する

IoT関連発明では、複数の装置がネットワークを介して繋がって1つの機能を実現しています。複数の装置を対象としたシステム全体のクレームは、IoT関連発明の機能を説明するのには最も適したクレームでありますが、実施主体が複数に分かれているため、直接侵害として権利行使をすることができない場合が多いと思われます。そのため、装置のそれぞれをシステムのサブコンビネーションとして捉えて、サブコンビネーションのクレームを作成する必要があります。

例)「無人走行車の配車システム」の携帯端末を構成要素としないシステムの請求項
例)「豪雨地点特定システム」の分析サーバの請求項
例)「ドローン見守りシステム」の端末装置を構成要素としないシステムの請求項

ただし、サブコンビネーションのクレームの場合、他のサブコンビネーションに関する事項が、サブコンビネーションの発明の構造、機能等を特定していないと、新規性があるとは認められないので、その点を考慮する必要があります。

2.データが発明の構成要素でない請求項を作成する

データ記憶部、データベースを有しない構成の請求項を作成するということです。データの所有者が実施主体でない場合も考えられるからです。

例)「無人走行車の配車システム」の配車サーバが記憶部を持たないシステムの請求項

3.機能分担を考慮した請求項を作成する

システムクレームにおいてどの装置がどの機能を有するかの必要以上の限定をしないということです。変形例の構成などいろいろなバリエーションを考慮する必要があります。

例)「無人走行車の配車システム」の無人走行車がサーバ機能を兼務する場合の請求項

なお、この3つは、IoT関連発明だけに特別に当てはまるわけでなく、ネットワークを介して複数の装置が繋がったIT関連発明、例えば、ビジネス方法の発明やサーバとクライアントからなる発明にもあてはまるものです。

出願すべきか否か

IoT関連特許の現在の状況に関しては、かつてのビジネスモデル特許の黎明期に似ているのではないでしょうか?今後、さらにIoT関連技術の出願が増加すると思われます。BtoB、BtoCを問わず、顧客にIoTサービスを提供する場合、ビジネスモデルを競合相手よりも早く押さえるためにも、出願を検討されることをお勧めします。IoTサービスの新規なアイデアをお持ちの方は一度相談に訪れてください。最適なアドバイスをさせていただきます。

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